納得して選んでいただくために、石原印房が大切にしていること
先日、こんなお話を伺いました。
「別の印鑑店で、印材を触ったら注意されたんです」
そのお客様は、
決して乱暴に扱ったわけでも、
棚の奥に手を伸ばしたわけでもありません。
ただ、
購入を検討している印鑑の見本を、手に取っただけ。
その行為に対して
「触らないでください」と注意されたそうです。
私は、その話を聞いた瞬間、
強い違和感を覚えました。
印鑑は“一生使うもの”です
印鑑は、日用品ではありません。
- 就職
- 結婚
- 住宅購入
- 会社設立
- 相続
人生の節目、
しかも取り消しのきかない書類に使われ続けます。
それほど重要なものを、
「見ただけで選んでください」
というのは、本当に正しいのでしょうか。
写真や説明だけで、
材質の違い、重さ、手触り、温度感まで
判断することはできません。
当店では、ぜひ触って検討してほしい
石原印房では、
印材の見本はぜひ触って、比べて、検討していただきたい
と考えています。
理由は明確です。
- 印鑑は一生使うもの
- 感触や重量感は触らなければ分からない
- 見本そのものを彫ることは絶対にない
お客様の前に出している印材は、
**商品ではなく、あくまで「見本」**です。
たとえ、その見本を落として欠けたり、傷つけたとしても大したことじゃありません。
その見本を触ることを禁止する理由が、
私たちには見当たりません。
骨董品や絵画とは、まったく違う
もちろん、
「触らないでください」という考え方が
すべて間違っているとは思っていません。
骨董品や絵画であれば、
それは一点物であり、
そのものが商品です。
触れることで価値が下がる、
傷がつく可能性がある。
だから「触らないでください」は正しい。
しかし印鑑店の場合、
お客様に出しているのは完成品ではなく、
**これから作る印鑑の“参考資料”**です。
この違いを混同してしまうと、接客は一気におかしな方向へ進みます。
私自身の体験から思うこと
実は私自身、
まったく別の業種で、
似た経験をしたことがあります。
あるとき、仲間とバーに入り、
カウンターの目の前に置いてあったお酒のボトルを見て、
「みんなでこれを飲もう」と思い、
手に取って
「これでお願いします」と言おうとしただけでした。
すると、返ってきた言葉は——
「勝手に触らないでください」。
棚の奥にある高級酒に
無断で手を伸ばしたわけではありません。
あくまで、目の前に置かれていた、ごく一般的な大衆酒です。
もちろん、
お店ごとにルールがあることは理解しています。
しかし、その一言で、
気持ちは一気に冷めてしまいました。
バーという場所は、
お酒を通して
楽しい時間や高揚感を提供する空間
だと、私は考えています。
大人になると、
仲間と集まって飲む機会は、
数年に何度もあるものではありません。
だからこそ、一回一回が
とても貴重な時間になります。
その大切な時間を、店側の言葉ひとつで
台無しにされてしまった。
私はその瞬間、こう感じました。
「この店では、気持ちよく、楽しく過ごすことはできない」
そして、そのまま仲間と店を後にしました。
この経験を通じて、
私ははっきりと学びました。
商品そのものではなく、
接し方ひとつで、
信頼は驚くほど簡単に失われる
ということを。
印鑑も、まったく同じです
印鑑の購入は、
多くの方にとって
一生に一度あるかないかの出来事です。
そんな大切な場面で、
「触らないでください」
「見ないでください」
という店側のルールによって、
嫌な気持ちにさせる権利は、
本来どこにもありません。
もし触ってほしくないのであれば、
最初からそう明示すればいい。
それをせずに、
検討しているお客様の行動を
一方的に制限することは、
決して親切とは言えないと、私は思います。
だからこそ、
**石原印房**では、
印材の見本は
ぜひ手に取って、触って、比べていただきたい
と考えています。
印鑑店のイメージを下げているのは誰か
印鑑業界には、
「敷居が高い」「怖い」「聞きづらい」
というイメージが、残念ながらあります。
その原因の多くは、
商品ではなく、接客姿勢にあります。従来の職人気質の
- 触るな
- 聞くな
- 黙って選べ
- 店側が売りたいものを売る
こうした空気は、
お客様を守るどころか、
遠ざけてしまうだけです。
印鑑は、
緊張しながら買うものではありません。
納得して選ぶものです。
そして、そのお客様はどうなったか
冒頭のお客様は、
当店で印材を一つひとつ手に取り、
じっくり比較されました。
重さ、質感、色味。
それぞれの違いを確かめた上で、
納得して一本を選ばれました。
最後に、こうおっしゃいました。
「ここは、安心して選べますね」
その一言で、
私たちの考えは間違っていないと
改めて確信しました。
そしてもちろん、
そのお客様は当店で印鑑をご注文くださいました。
触っていい、聞いていい、悩んでいい
石原印房では、
- 触っていい
- 聞いていい
- いくらでも悩んでいい(他店と比べてください)
そういう印鑑店でありたいと考えています。
無理におすすめすることはありません。無理に購入する必要もありません。
こちらが必要ないと思えば、
「今は作らなくていい」と正直にお伝えします。(グループ店も含めそういったことを徹底してます)
それも含めて、
納得して選んでいただくための接客です。
最後に
印鑑は、
人生に長く寄り添う道具です。
だからこそ私たちは、
「売ること」よりも
「後悔させないこと」を優先します。
どうぞ遠慮なく、
手に取ってご覧ください。
その一本を、
本当に納得して選んでいただくために。



