〜100年続く印鑑店に、“静かな余白”をくれる存在〜

■ 朝、扉が開く音とともに

「カラン、コロン」

開店の合図に合わせて、扉の鈴が軽やかに響く。
職人が作業台に腰をおろすころ、一匹の黒白猫がゆっくりと足音を立てずに姿を現す。

石原印房の看板ねこ――ぶっち店長
今日も、店内の“空気”を確かめるように、静かに一日が始まる。


■ 石原印房と、猫と。はじまりの物語

石原印房が創業したのは、今から100年前。
初代・赤城刀仙が印刀を握り、名を刻む職人としてこの地に根を下ろしたことがはじまりです。

その後、2代・3代と代を重ねるなかで、
ある日ふらりと店の裏手から現れたのが、まだ赤ちゃんの「ぶっち」でした。

「あ、そっちは墨を使うから汚れるぞ」

最初は距離のあったぶっちも、いつしか、
気がつけば店内の“空気の一部”になっていたのです。


■ そして、自然に「店長」になった

誰かが“店長”と呼び始めたわけではありません。
お客様が店に入り、ぶっちを見つけて一言。

「あっ、今日も店長いるんですね」

それが、すべての始まりでした。

ぶっちは、人を見ます。
緊張している人、悩みを抱えている人には近寄らず、
どこか安心している方にはそっと寄っていきます。

まるで、空気を読む“もうひとりの接客係”。

私たちは言います。

「あの子が近くにいると、変な緊張感が消えるんだよな」


■ 印鑑屋という“ちょっとかたい場所”に、ゆるさと温かさを

石原印房には、毎日さまざまなお客様が訪れます。
就職、結婚、開業、相続――
それぞれの人生の節目に、“名前を刻む”ためにご来店されます。

印鑑を選ぶということは、人生の“決意”を形にするということ。
だからこそ、緊張と責任の重さが同時に漂う空間になります。

そんなとき、ぶっちが店内の隅でごろんと転がる姿に、
「なんか、ほっとしました」と笑うお客様が多いのです。

その瞬間、ふっと空気が和らぎ、
お客様はようやく本音を口にしてくれるようになります。


■ あるお客様とのエピソード

ある日、ひとりのご年配の女性がご来店されました。
ご主人を亡くされ、相続手続きのために印鑑を作りに来られたそうです。

はじめは言葉少なで、どこか心細そうにしていらっしゃいました。
そのとき、ぶっちがそっと椅子の足元に座り、動かずに女性の方を見上げていました。

「この子、あったかいですね…」

そうつぶやいたあと、女性は少しずつ、
ご主人との思い出や、ご家族のことを話してくださいました。

帰り際には「今日はここに来てよかった」と言ってくださり、
その手にはぶっちの毛が、ほんの少しだけついていました。


■ 店長の“ルーティン”

ぶっち店長には、きちんとした“巡回ルート”があります。

  1. 朝はカウンター下のチェック
  2. 午前中は観葉植物の葉の匂い確認
  3. お昼前に床で一度ごろん
  4. 午後はショーケース前で堂々の昼寝
  5. 閉店間際に帳簿の上に乗ってスタッフの進捗チェック(!?)

その動きに、私たちは毎日小さく笑いながら、
「今日も店長は問題なし」と、仕事に戻っていきます。


■ 猫は、店を変える。空気を、文化を、想いを。

猫がいるから来てくださる方もいれば、
猫がいたことでリラックスして話せた方もいます。

でも、それ以上に――
ぶっちという存在が、“石原印房らしさ”を形づくっていることを、私たちはよく知っています。

機械彫刻が主流になった時代でも、
対面で相談し、名前と向き合ってつくる印鑑は、
いまだに「特別な1本」でありつづけています。

そして、その特別さを優しく包み込んでくれるのが、ぶっちなのです。


■ 最後に:猫のいる印鑑屋で、お待ちしています

私たちは、印鑑を「モノ」としてではなく、
その人のこれからを背負う“証”として扱っています。

名前を刻むことは、人生と向き合うこと。
だからこそ、職人の責任と覚悟は常に求められます。

でも――そこに「ぶっち店長」がいるだけで、
張りつめた空気はふわりとほどけ、
お客様の本当の声が、そっと届くようになるのです。


📍石原印房(群馬県みどり市大間々町965)
🕒 平日10:00〜18:00(土日祝休)
🐾 ぶっち店長、気まぐれに出勤中(出会えたらラッキー)
💬 実印・銀行印・法人印・御蔵島本柘・一生涯保証印鑑もご相談OK


猫と老舗印鑑店。
100年続く印鑑屋で、あなたの“名前”を丁寧にお預かりします。

ご来店、心よりお待ちしております。